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牛乳にココアを

「強くなりたい」「成長したい」
気持ちの問題,給食で解決

Aoki

2000年8月2日(水)産経新聞静岡版”学びと教えの現場から”掲載

牛乳にココアを

 「先生、牛乳,飲めません。残してもいいですか?」
 四月最初の給食の日、小学校五年生になったばかりのMさんは、か細い声で私にたずねました。
 彼女は、体質の関係で,小さい頃から牛乳を飲まないようにしていたのです。しかし,母親からは「成長したので飲んでもよくなりました。ただ,本人が飲もうとしないのです。」という連絡を受けていました。牛乳を飲めないのは,体質ではなく,Mさんの気持ちの問題となっていたのです。
 「できれば飲めるようにしてあげたい!」と思うのは担任としての人情です。でも、無理強いはできません。私の返事を待つMさんの顔には,「先生,お願いします」という懇願の表情が浮かんでいました。
 そこで,「残してもいいよ。ただ大きくなったから,飲んでも大丈夫なんだって。いつか飲めるようになるといいね」と言って牛乳を受け取りました。
 担任の私が手を打たなければ、おそらくMさんは、ずっと牛乳を飲まないままでいるだろう…飲めるようにしてあげたいが,どうしたらいいだろうか?

小声で「大丈夫」

 翌日の給食の時間、Mさんは、前日と同様に「残してもいいですか?」とたずねました。私は、「ちょっと待って。その牛乳を貸してごらん」といって受け取ると、パックを開き、用意してきたココアのもと(砂糖入り)を入れました。
「こうすると牛乳がおいしいくなるんだ。ちょっと飲んでみるかい?」
 Mさん、牛乳を受け取り,しばらく見た後,そっと口をつけました。パックの五分の一ほどが減りました。私はたずねました。「どう?」Mさんは小さな声で答えました。「だいじょうぶ。」…と。
 「えらい! よく飲んだね。」と私は大げさにほめました。そして、他の子たちに知らせました。「Mちゃんさ、今まで牛乳飲めなかったんだよ。だけどね、今日、ココアを入れたら,これだけ飲めたんだよ。すごいだろう。」”Mさんと牛乳”を知る子もいたのでしょう。教室内に拍手が起こりました。
 拍手が収まってから「しばらくココアを入れたいんだけど、いいかなぁ?」とたずねました。周りの子供たちは「いいよ。そんなこと。気にしない、気にしない。」と答えてくれました。
 Mさんの飲む量は次第に増え,一週間もしないうちに,パックの中身が全てなくなるようになりました。

口調に強い意志

 ある日、私がココアを入れようとすると,彼女は,小さけれどもはっきりとした声で「先生,私,今日,ココア入れるのやめる」と言いました。
 その口調には,Mさんの強い意志が表れていました。
 彼女は,牛乳を飲み始めました。ゆっくりとですが,そのまま一気に全部飲みました。飲み終わった顔は,どこかほっとしているようにも見えました。

 Mさんが,牛乳を飲めるようになったのは,ココアの力によるものではありません。
 彼女が持つ「強くなりたい。成長したい」という”心のパワー”が彼女を変えたのです。
 Mさんの変化はいろいろな場面で見られるようになりました。四年生まではいつも見学していたという体育に必ず参加するようになりました。弱々しく暗かった表情は,明るい笑顔に変わりました。恥ずかしがり屋の性格はどこかにいき,手を挙げて発表することが多くなりました。
 Mさんを一年生の頃から知る同僚は「Mさんほど成長した子を見たことがない」と驚いてくれました。

 ある暑い日,欠席した子の牛乳を誰かに飲んでもらおうと,子供たちに声かけしました。
 「飲みたい!」
 一番に手を挙げたのは,Mさんでした。Mさんは,二本の牛乳を続けてごくごくと飲みほしました。

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